電脳山荘殺人事件と、殺戮のディープブルー

いかがでしたか、『電脳山荘殺人事件』のプロローグは。
この作品は、インターネットが普及していない時代のものです。ですから、最初に発刊されたマガジンノベルス版では、当時の事情を考慮して、『インターネット』でなくパソコン通信でのオフ会という設定になっていました。
パソコン通信というのは、閉じた通信網でのテキストデータのやりとりで、今普及しているインターネットと比較すると非常に制限が多く、また、匿名性もあまりないシステムでした。作中では、匿名性の高いパソコン通信のチャットがあると仮定してのストーリー展開だったのですが、当時は、そんな馬鹿げた危険な通信網が今後成立していくはずがない、などと言われたものです。しかし、現実は私の想像をはるかに超える形で、匿名性が高まり、この作品で描かれたような犯罪が、現実に多数起こる世の中になってしまいました。
現在でている講談社ノベルス版では、時代に合わせて、『パソコン通信』を『インターネット』と言い換えてあります。


さらには、このネットの世界がある種の『住民』を抱えていく世界をみこして、『殺戮のディープブルー』(1999年7月刊)という金田一少年のノベルスシリーズも書きました。


金田一少年の事件簿―殺戮のディープブルー〈上巻〉

金田一少年の事件簿―殺戮のディープブルー〈上巻〉

金田一少年の事件簿―殺戮のディープブルー〈下巻〉

金田一少年の事件簿―殺戮のディープブルー〈下巻〉



これは、『電脳山荘』の世界がさらに極端に進んだ形の、インターネット内宗教とでもいうべき集団が、テロを起こしていくというストーリーですが、その翌年の3月に、これに近い設定の村上龍さんの『共生虫』という作品が書かれ、奇しくも、『犯人』のテロ行為の凶器となるものが、旧日本軍の残した毒ガス兵器であるところまで同じだったので、ちょっと驚いたのを覚えています。
村上さんは、たぶん読まれてはいないと思うのですが(笑)。


共生虫 (講談社文庫)

共生虫 (講談社文庫)


こうして思い返すと、私はトリックよりも設定の面白さや動機の深さなどにかける時間のほうが、遥かに長いんです。金田一少年の漫画版の初期から中期(オペラ座〜怪盗紳士あたり?)などは、実はトリックは後から思いつきで突っ込んだりとか、けっこうやってます(笑)。それが意外とマニアに評判になったりするからわからないものですね。
特に金田一少年の殺人』なんかは、本当に喫茶店でお茶してる最中に、ふと考えたドリフのコントが元ですから。最初に編集スタッフに話したら笑われたんですが、でも、笑いって意外性がないと出ないでしょう? だから、よし、これでいってみよう、なんてことで本編に採用したのが、あの『足跡トリック』です。


以前、ミステリ作家の法月倫太郎さんにお会いしたときに、褒めていただいたトリックがこの足跡とあと、『飛騨からくり屋敷』のトリックです。どっちもドリフのコントが元になってる、思いつきトリックだったんですよね(笑)。



対して、動機については本当に初期の頃からすごく考えて作ってます。 『雪夜叉伝説』の動機なんかは、ある大事故がもとになっていて以前から小説で書くつもりで温めていたものですし、『首吊り学園』のあのラストの『絵の話』なんかは、ネタは決まっていたもののちょっと弱いかなと思ったこともあり、ぎりぎりに絵コンテの段階でさとうさんと首っ引きで練り直し、グッとくる話になるまでセリフなどを詰めた覚えがあります。
特に思い入れが強いのは、『金田一少年の殺人』の、あの動機です。あれは、私がプライベートで体験した『ある大きな出来事』が、きっかけになって発想しました。
“それ”がなかったら、あの最後のほうの犯人のセリフや行動なんか、ぜったいに出なかった発想ですし、私自身にとってとても思い出深いものになっています。
後期になっていくと連載が増えて時間がなくなり、いろんな意味で苦労しましたが、今回の恒例(?)夏の復活については、多少時間に余裕がもらえたので、舞台設定や一話一話の怖さの煽りなんかも、かなりうまくいってる気がします。トリックもたくさん盛り込みました。楽しみにしていてください。夜中に一人で読むと、怖くて寝つけなくなるような話にしたいと、私的には思って頑張っています。
タイトルは、このブログの読者のみなさんにだけ、今週中に教えてしまおうかな、なんて企んでます。
トマちゃんに怒られるかな?
連載開始は8月の後半です。お楽しみに。


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