上海魚人伝説、裏話、最終回


撮影のクライマックスを飾るのは、映画のクライマックスでもあり、日テレプロデューサーHさんの最初のイメージだった、魔都・上海の街をローラーブレードで疾走する金田一少年……というシーンです。
スタッフの気合の入れようも大変でした。きっとHさんから、さんざんイメージを聞かされてきたのでしょう。ここでなにか失敗があったら大変とばかりに、ロープを張って集まってくる群衆を押しとどめ、でも人がともかく多い上海のイメージを壊さないようにと、気の使い方はハンパではなかった。
そして撮影開始。
夜の上海に、堂本剛クンのローラーブレードの音が響きます。
息が詰まるようなシーン。
映画ではどうだったでしょう。
どんなにうまく撮れたとしても、あの雰囲気は出しようもなかったと思います。
剛クンも真剣そのものです。
ヘトヘトの体に鞭打って、全身で路面を蹴って、かけぬけていきます。
いいシーンになりそうだ。
おめでとう、Hさん、と近づいて声をかけようとしたそのときです。
彼女の目に涙が浮かんでいたのです。
表情は、厳しいままでした。キリッと撮影の様子を見届けながら、その目からは大粒の涙がこぼれ落ちます。ぬぐおうともせずに頬を伝う雫に、上海の夜のネオンサインが映りました……。
このときすでに長いつきあいで、今でもそれはつづいていますが、彼女の涙をみたのは、これが最初で最後です。
この映画にかぎらず、たくさんのつらいこともあったはずですが、彼女はいつも表情を変えず、動揺をみせず、客観的な目で自分の仕事を見続けてきました。
そのハゼ……いや、Hプロデューサーが、幾多の困難を乗り越えた末に流した涙……。


『上海魚人伝説』はその年の邦画の興行収入1位〜2位(たしか)のヒットとなり、いろんな意味で私にとって、忘れられない作品となったのです。



(おわり)


関連サイト

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金田一少年の事件簿 上海魚人伝説殺人事件   マガジンノベルス

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